「ボイ! ボイ!」「いま6メーター!」「正面に来たよ!」
11月初旬の日曜日、都内施設のフットサルコートに選手やスタッフたちの元気な声が響いていた。この日は、ブラインドサッカーチーム「free bird mejirodai」の練習日だ。
ブラインドサッカーは視覚を閉ざした状態でボールの音と声のコミュニケーションで行うサッカーで、フットサルをもとにルールが考案されている。4人のフィールドプレーヤーはアイマスクを着用してプレーし、ゴールキーパーは晴眼者または弱視者が務める。見えない選手への指示は、相手チームのゴール裏にいるガイドが出す。ボールの内部に金属性のプレートと小さな球が入っており、転がると「シャカシャカ」と音が鳴る仕組みで、フィールドプレーヤーはその音と、相手の気配、仲間やガイドの声などを頼りにパスをつなぎ、シュートを狙う。相手のボールを取りに行く際は、衝突を避けるため「ボイ!」と声をかけなくてはならない。「ボイ(Voy)」とはスペイン語で「行く」という意味だ。
「free bird mejirodai」というチーム名は、“ピッチの中なら自由に走り回れる、自由に飛べる”という選手の想いからつけられた。2016年に設立した比較的新しいチーム。筑波大学附属視覚特別支援学校の関係者から「同世代で切磋琢磨できる競技環境を作ろう」と話があがり、同校教員で以前からブラインドサッカーの育成世代の指導に携わっていた山本夏幹(やまもとなつき)監督のサポートもあり、有望な選手たちが集まったという。
現在、日本ブラインドサッカー協会の日本代表強化指定選手である丹羽海斗(にわかいと)選手や園部優月(そのべゆづき)選手、元日本代表の鳥居健人(とりいけんと)選手らも、結成時からのメンバーだ。同じく、チーム立ち上げから所属する永盛楓人(ながもりふうと)選手は、高校1年だった当時のことをこう振り返る。「もともとサッカーがすごく好きだったので、チームができると聞いてかなりうれしかったです。練習も放課後を使ってできるのも魅力でした」。現在、所属しているのは10人で、「受験勉強やテストのため、練習を休む期間もありますが、練習に戻るとみんな歓迎してくれます。それが活力になるので、勉強のギアも上がって集中できるんですよ」と、永盛選手はチームの存在の大きさを語る。
チームスローガンは「トータルフットボール」。誰がどのポジションに入っても対応できる力を身につけ、組織的な守備と攻撃を展開する力を磨いてきた。上を目指すために意見の食い違いがあれば、その都度集まり、率直に意見を戦わせ、そして話し合いをして解決してきた。お互いを尊重していく中で、徐々にプレーの幅が広がり、プレー中も最適なポジションと連携が取れるようになってきたという。
2019年の日本選手権では決勝に進出。今季は新型コロナウイルスの影響で練習中止を余儀なくされたが、週に2回はオンラインでメンバー同士でつながり、ともに筋トレなどに励んだそうだ。また、その期間を利用して、以前から選手たちに走行距離や心拍数を測る科学的サポートを行ってきた日本大学の協力を得て、メンタルトレーニングも取り入れたことで、互いの理解度がより高まったという。これまで以上に心身をコントロールできるようになり、選手たちは「今季も自信を持って大会に臨む」と声をそろえる。
大学生になった永盛選手は、「チームでの経験が実生活にも好影響を及ぼしている」と話す。「今はメンバーの中で中間の年齢になったので、バランスを取ってまとめる役割だと認識しています。大学のゼミでも自分の考えを伝えつつ、周りが意見を出しやすい雰囲気を作るといった行動につながっていると思います」
また、ガイドを務める高橋(たかはし)めぐみさんは、ブラインドサッカーの魅力をこう語る。「フィールドプレーヤーもゴールキーパーもガイドも、誰が欠けてもチームは成り立ちません。このチームの一員として、障害の有無に関係なく、チームメイトとして、一人の人間として対等な関係でいられることが、一番の魅力だと感じています。またプレー面では、選手たちは視覚の情報を得られず、アイコンタクトが取れないので、事前に戦術を共通理解することに時間をかけ、それをピッチで体現しています。だからこそ、試合を観た人は『見えてないのにすごい!』となるんだと思います。奥が深いブラインドサッカーの世界を、ぜひもっと知ってもらいたいですね」
互いに刺激し合いながら一丸となり、さらなる飛躍を目指して日々研鑽を積むfree bird mejirodai。今後の活躍が楽しみだ。
(取材・文/MA SPORTS、撮影/植原義晴)