「ナイス! いいコースだね!」「ドンマイ、次だよ次!」
日曜日の昼下がり、体育館に元気な声が響き渡る。この日はローリングバレーボールのクラブチーム「東京ベアーズ」の練習日。電動車いすに乗ったプレーヤーや健常者らがコートの上で一緒にボールを追いかける。
ローリングバレーボールは、その名の通り「球を転がす」バレーボールだ。バレーボール用のネットを床から30~35㎝の高さに設置し、その下にボールをくぐらせてプレーする。通常のバレーボールと同じで、レシーブ、トス(パス)、アタックとつなぎ、3打で相手コートに返球し、ボールアウトになると得点が入る。コートでプレーするのは前衛3人、後衛3人の計6人で障害者と健常者でチームを組む。
重度の障害がある人もプレーできる。電動車いすに乗ったままプレーする選手や膝をついてプレーする選手など、そのスタイルは障害の程度によってさまざまだ。それだけに、パスは受け手に合わせて出す正確さがより必要になる。また、パスを受けたアタッカーは大きく腕を振り、思い切り相手コートに打ち込む。座った状態でもそのスピードは威力抜群で、主に後衛で守備を固める健常者プレーヤーが弾き飛ばされることも。全員で息を合わせてボールをつなぎ、得点を決める瞬間こそが、この競技の醍醐味だ。
ローリングバレーボールは、1977年に兵庫県立播磨養護学校において体育教師が「盲人バレーボール」に工夫を加えて創案したのが始まりとされる。それから約10年後に東京で社会人チームが結成され、東京ベアーズはそこから派生する形で1990年に誕生した。東京都ローリングバレーボール連盟に加盟する5つのクラブチームのなかで、最も古い歴史を持つチームであり、選手の年齢層は20~70代と幅広い。事務局を務める吉弘美智子(よしひろみちこ)さんは設立メンバーのひとりで、67歳の今も現役選手として活躍中だ。
全国大会に向けて行われる予選大会「Rリーグ戦(年3回)」に毎年出場している東京ベアーズ。今年は5チーム中3位の成績をおさめた。近年はメンバー減少の影響もあり優勝から遠ざかっているが、かつて君臨した王者の座を取り戻すべく、練習に励んでいるという。吉弘さんは、「うちのチームのモットーは『みんなで楽しく』。そのうえで、頂点奪還を目指したいですね」と話す。
ローリングバレーボールは、一般のバレーボールのように選手のローテーションを行わないため、ポジションが固定される。そのため、攻撃を担う前衛、守備の要である後衛がそれぞれの役割をしっかりとこなすことが重要になる。取材の日、車いすを降り、座った状態でセッターをしていた吉弘章一(よしひろしょういち)さんによると、セッターはボールを確実につなぐだけでなく、仲間の動きをみて指示を出す司令塔の役割があるため、「視野の広さが求められる。見た目以上に体力を使います」とのこと。また、健常者プレーヤーで、後衛で回転レシーブや仲間のカバーリングなど俊敏な動きを見せていたキャプテンの浅利則之(あさりのりゆき)さんも、「コースを読む力と、展開に反応するフィジカルが必要です」と、息を弾ませて奥の深さを語ってくれた。そして、「健常者と障害者が一緒にプレーできるのがこの競技の魅力。楽しいですよ」と、ふたりは笑顔を見せる。
コートに入る6人のうち、健常者は2人までとルールで定められている。東京ベアーズではメンバー募集中だが、現在のところ常に練習に参加できる健常者プレーヤーがぎりぎりの2人のため、とくに健常者の新戦力を求めている。前途のRリーグ戦のほかに、関東を拠点として活動しているチームを中心に行う「関東大会」など、その実力を発揮する場がある。東京ベアーズでは、「バレーボール経験の有無、性別や年齢を問わずプレーできます。面白そうだなと思った方は、ぜひ私たちと一緒にやりましょう!」と、参加を呼び掛けている。