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パラスポーツインタビュー詳細

蒲生 和麻さん(デフ柔道)

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プロフィール

名 前

蒲生 和麻(がもう かずま)

生年月日

1994年4月24日

出身地

東京都

所 属

東日本旅客鉄道株式会社

 先天性難聴のある蒲生選手が柔道を始めたきっかけやデフ柔道の選手として感じること、普段の練習の様子、東京2025デフリンピックへの思いなどを伺いました。

蒲生選手の障害について教えてください。

 先天性難聴で、生まれつき音がきこえにくいという障害があります。

柔道を始めたきっかけは?

 小学4年生の頃、母に薦められて始めました。警察署の少年柔道教室に通い始め、そこで柔道の魅力に目覚めてここまで柔道一本でやってきました。

柔道のどこに魅力を感じましたか?

 豪快に技が決まったときの爽快感も好きですが、1番の魅力は礼節を重んじるところだと思います。「礼に始まり礼に終わる」といわれる柔道では、対戦相手にもしっかりと敬意を表します。そういう姿勢を通して、心身ともに鍛えられていくのを感じます。

蒲生選手の得意技は何ですか?

 内股です。

憧れの選手は?

 1992年バルセロナ・オリンピックの柔道男子71キロ級で金メダルを獲得した古賀稔彦(こが としひこ)さんです。
 中学生のときにYouTubeで柔道を見ていたところ、古賀さんの豪快な投げを見て「すごい、こんなにも豪快に一本がとれるんだ!」と驚きました。

デフ柔道との出会いについて教えてください。

 小中高と健常者に混じって柔道をしていましたが、筑波技術大学という視覚障害者と聴覚障害者のための大学に入って、デフ柔道を知りました。
 体育の先生に「聴覚障害者のオリンピックのような、デフリンピックという大会があるんだけど、そこを目指してみないか」と言われたことがきっかけとなり、本格的にデフ柔道を始めました。

一般の柔道とデフ柔道の違いは?

 技などのルールは基本的に同じです。階級は障害の程度によるものではなく体重別に分かれていて、私は73キロ級です。
 一般の柔道は、試合のときに「待て」という審判の声が掛かったり、指導を受けたりしますが、デフ柔道では、審判が選手の肩をたたいて状況を知らせることが多いです。
 私は先天性難聴のため補聴器を付けていますが、試合中は補聴器を外すので、審判の合図、応援の声や拍手などはきこえない、無音の世界に入ってしまいます。試合中は静寂で孤独を感じますし、音で状況を察知できないのでとても緊張します。
 それに、きこえる人は先生のアドバイスをききながら試合ができますが、デフ柔道の選手はアドバイスもきこえないので、自分で考えてやることが多いです。

先生とのコミュニケーションはどのようにしているのですか?

 手話ができる方ばかりではないので師範やコーチの話は口話で口の動きを読み取っています。ですが、練習中は補聴器も汗で音がきこえにくくなるため、ある程度はききとれますが、完全に理解することは困難でうまくコミュニケーションをとれないことにもどかしさを感じることもあります。

普段、練習はデフ柔道の選手と行っていますか?

 健常者と練習しています。聴覚障害者ということを意識せず、遠慮なく一緒に稽古しています。
 大会では海外の選手と試合をすることもありますが、彼らは体格も筋力も勝っているので組み合ったときの威圧感で緊張します。そのため、練習のときは元オリンピック選手に相手になってもらうなど、海外選手に勝てる実力がつくように努めています。

デフ柔道の競技人口はどれくらいですか?

 日本全体で私の知る限りでは10人くらいです。デフ柔道という競技が始まってまだ数年なので、更なる周知活動が必要だと感じています。もっと競技を知ってもらうことで、選手の数も増えてくると思います。
 ただ、広く認知してもらうには実力がないと難しいので、大会に出て結果を残すことでデフ柔道という競技を広めたいと考えています。

柔道クラブで子どもたちを指導したことがあるそうですね。

 大学生のときにデフ柔道をやっている知り合いから、発達障害や聴覚障害者の柔道クラブに一緒に行かないかと誘われ、子どもたちに柔道を教えたことがありました。
 社会にでるとコミュニケーションに苦労することやいろいろな障壁を感じることがあるかもしれません。子どもたちには柔道を通じて心身を鍛え、忍耐力を身に付けてもらえたらいいなと思いました。
 私自身、20年間の柔道人生を振り返ると、大会で優勝するうれしさを経験できましたし、素晴らしい先生やコーチ、仲間と出会うこともできて、良いことが多くあったと思います。柔道で培った経験は人生のいろんな局面で役立ちますので、一人でも多くの子供たちに、その素晴らしさを経験してほしいですね。

今後の日本デフ柔道界について、どのように考えていますか?

 今日本のデフ柔道では全階級に選手がいるわけではないので、ゆくゆくは全階級に選手がいて、その選手たちが国際大会でメダルを獲れるくらい層が厚くなればいいなと思っています。そのためには、全国でこの競技のことをもっとアピールしなければいけないと考えています。

仕事と競技をどう両立させていますか?

 基本的に平日は仕事で、会社では経理関係の事務を担当しています。
 自分の中で平日は修行だと考えています。朝起きたらまずランニングか懸垂をやって職場に行き、終業の時間や天候にもよりますが、仕事から帰ってきたら練習かトレーニングをします。基本的な練習メニューを中心に、トレーニングでは下半身が弱いという課題に取り組み、片脚のスクワット等をメインに行っています。平日は1日も欠かさず、こういう生活を送っています。

お休みの日の過ごし方は?

 日曜日は完全にオフと決めていて、柔道のことを一切考えないよう、登山や今はやりのモルックといった趣味に没頭するようにしています。そうやってリフレッシュしながら、心身の疲労回復と柔道を続けるモチベーションを維持しています。

2022年5月にはブラジルで開催された「第24回夏季デフリンピック競技大会」に出場されました。自身初のデフリンピックはいかがでしたか?

 デフリンピックに出て、自分がどれくらいのレベルなのか肌で感じてみようと思いました。ただ、実際に出場してみて世界とのレベルの差を感じ、世界で戦うには、自分の時間を作って有効的に、真剣にやっていかなければという気持ちになりました。次回、2025年のデフリンピックが東京で開催されるということにも刺激を受けました。

デフリンピック以外で国際大会に出場した経験は?

 4年に一度、デフ柔道の世界選手権が行われていますが、2021年の「第1回 世界ろう者柔道選手権大会」に出場し、銀メダルを獲得しました。そして、今年4月にカザフスタンで開催された「第2回 世界ろう者柔道選手権大会」では銅メダルを獲得しました。

来年2025年11月には初めて日本で第25回夏季デフリンピック競技大会 東京2025(以下、東京2025デフリンピック)が開催されます。世界選手権で輝かしい成績を収めた蒲生選手の活躍も楽しみです。

 今の私の最大のモチベーションは、東京2025デフリンピックに出場して金メダルを獲ることです。デフ柔道をはじめ、デフスポーツ全般は世間的にはマイナーな存在なので、試合で活躍して結果を残すことで注目度が高まってほしいと思っています。そうなれば競技人口が増えるでしょうし、選手にはスポンサーが付くかもしれません。現状は多くのデフスポーツ選手が海外遠征費を自腹で払っていますし、経済的な理由でデフリンピックへの出場を断念した選手もいましたので、経済面でバックアップしてくれる方がいると本当に心強いです。

デフリンピックを見て柔道を始めてみようかなと思った方へ、メッセージをお願いします。

 痛いとか怖いとか、柔道に対してそういうイメージがあるかもしれませんが、柔道は自分の身体を守る術と人付き合いで欠かすことのできない礼儀が身につきます。今後の生活に活かされることがきっとあると思うので、自分のペースで始めてみることをぜひおすすめします。