男子BC2のライバル対決は廣瀬選手が制す
パリ2024大会の日本代表選考を兼ねた男子BC2の決勝は、廣瀬隆喜(ひろせたかゆき)選手(西尾レントオール)が杉村英孝(すぎむらひでたか)選手(伊豆介護センター)を6-1で下し、大会4連覇を達成。パリ2024大会の日本代表推薦選手に内定した。
「火ノ玉JAPAN(ボッチャ日本代表の愛称)」の2大エースである廣瀬選手と杉村選手。日本選手権は2006年から両者のどちらかが制しており、自他ともに認めるライバル関係だ。決勝は序盤から競る展開となり、1-1で迎えた第3エンドに廣瀬選手が勝負に出た。スローイングラインから10m先のエンドラインの手前ぎりぎりにジャックボール(目標球)を投球。杉村選手は2投目をジャックボールに寄せるが、廣瀬選手はそのボールを強いショットで押し出した。その後、アウトを重ねた杉村選手に対し、廣瀬選手は3投目をジャックボールに触れて止めるなど精度の高い投球を見せて4得点とリードを奪った。最終エンドは杉村選手が攻めて逆転のチャンスを作ったが、最後の一投で相手のボールをジャックボールに近づけてしまうミスが出て、廣瀬選手に1点を献上し、試合は終了。息詰まる攻防戦を見守り、一球ごとに歓声を挙げていた観客からは、両選手に大きな拍手が送られた。
試合後、廣瀬選手は第3エンドで長い距離を投げる「ロングボール」を選択した理由について、「頭をフル回転させて(展開を読んで)決めた。テクニシャンの杉村選手を相手に力を抜いてはいけないと思い、決断した」と振り返り、会心の勝利に笑顔を見せた。杉村選手は「悔しい、の一言」と話し、「ロングボール対策もしてきたけれど、実力差が明るみになった」と唇をかんだ。なお、男子BC2のパリ2024大会の日本代表推薦選手選考は2名で、敗れた杉村選手も日本ボッチャ協会の選考基準である2023年12月31日付世界ランキングの最上位選手に該当するため、内定が決まった。
決勝戦で会心の投球に雄叫びを上げる廣瀬選手
劣勢な状況でも冷静な試合運びを見せた杉村選手(左)
女子BC1の遠藤選手も初めてのパラリンピック出場へ
女子BC1の決勝は、昨年と同じく藤井友里子(ふじいゆりこ)選手(アイザック)と遠藤裕美(えんどうひろみ)選手(福島県ボッチャ協会)の対戦カードに。第2エンドに遠藤選手がコートの右奥にジャックボールを置くと、藤井選手は冷静にディフェンスを選択し、相手の投球コースにボールを配置。だが、遠藤選手はその配球をものともせず、力強い投球で次々とジャックボールに寄せ、一挙に5点をマークした。藤井選手は第3エンドで1点を返すが、最終エンドで制球が定まらずに2点を失い、8-2で遠藤選手が勝利した。
2連覇を達成した遠藤選手は、「ロングボールを投げるため、筋力トレーニングや栄養管理に取り組んできた。今日は練習してきたことを出し切れたことが結果につながった」と笑顔を見せた。初出場となるパラリンピックに向けては、「内定をもらえて嬉しい。今大会で得た課題をしっかりと修正して、パリに臨みたい」と力強く語った。一方、3度パラリンピックに出場している藤井選手は、「これまではこのクラスの先駆者の意地のようなものがあり、それが足を引っ張りうまくいかないこともあった。今は自分がやるべきことをやろうと切り替えているし、今日はボッチャができることに感謝の気持ちを持ってプレーできた」と話した。
また、廣瀬選手、杉村選手、遠藤選手は大会終了後に開かれた記者会見に出席。報道陣の前で、改めてパリ2024大会に向けた意気込みや目標をそれぞれ語り、大会を締めくくった。
遠藤選手は得意のロングボールで攻めの姿勢を貫いた
白熱した試合で会場を沸かせた遠藤選手と藤井選手(右)
BC3の有田選手と一戸選手が、パラ最終予選の出場権獲得
男子BC3決勝は、昨年の杭州2022アジアパラ競技大会の個人戦で銅メダルを獲得した有田正行(ありたまさゆき)選手(電通デジタル)が髙橋祥太(たかはししょうた)選手(わかば隊)を5-1で破り、2大会ぶりに王座に返り咲いた。女子BC3決勝は、17歳の一戸彩音(いちのえあやね)選手(ポルテ多摩)が関根彩香(せきねさやか)選手(AVANTI)を4-1で下し、大会連覇を果たした。この結果、有田選手と一戸選手は、3月にポルトガルで開催予定のパリ2024大会最終予選のBC3ペア戦の出場権を手にした。有田選手は「これまでの国際大会でも一戸選手とペアを組んでいる。いいチームになれるように頑張りたい」と意気込みを語り、一戸選手も「有田選手と組めることになり嬉しい。コミュニケーションをしっかり取って臨みたい」と言葉に力を込めた。
男子BC4決勝は、2022年世界選手権個人戦金メダリストの内田峻介(うちだしゅんすけ)選手(大阪体育大学アダプテッド・スポーツ部 APES)が、予選で一度敗れた江崎駿(えさきしゅん)選手(トランコム)に7-3で勝利した。内田選手は昨年12月のアジア・オセアニア選手権のクラス分けで、パラリンピックの参加資格を満たさない障害(NE)と判定された。パリ2024大会出場に暗雲が立ち込める中、この日本選手権を迎え、「この1カ月は本当に苦しかった。未来が見えなくなってしまった。それでもコーチや大学の学生たちが自分を支えてくれて、今大会はやれることを最大限できた」と、涙を浮かべながら周囲の人への感謝の気持ちを口にしていた。
ランプオペレーターを務める妻の千穂さんとともに優勝を手にした有田選手
一戸選手は父の賢治さんと勝利の喜びを分かち合った
地域の競技基盤強化により、若手選手も成長中
今大会は10代や20代前半の選手の活躍と存在感が光った。とくに男子BC3は若手選手の台頭が目覚ましかった。決勝に進出した前述の19歳の髙橋(祥)選手は、予選リーグで東京2020パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)ペア戦の銀メダリスト・河本圭亮(かわもとけいすけ)選手(トランコム)に勝利。また、21歳の鵜川健介(うかわけんすけ)選手(サウスフィールドクルー)は、予選リーグで同じく東京2020大会のペア戦の銀メダリストである高橋和樹(たかはしかずき)選手(フォーバル)を破っている。20歳の黒木幸雄(くろきさちお)選手(日本福祉大学)は準決勝で有田選手に敗れたものの、トップ4に名を連ねた。
この3人は、アスリート発掘事業「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト(J-STARプロジェクト)」出身だ。4期生の鵜川選手は、「髙橋(祥)選手と黒木選手は3期生で、みんな実力が同じくらい。これからも全員に勝つくらいのつもりでやっていきたい」と、力強く語った。
日本ボッチャ協会のハイパフォーマンスディレクターを務める村上光輝(むらかみみつてる)強化本部長は、「J-STARプロジェクトは、若い世代が競技を始めるきっかけの1つとして大きい」と話す。加えて、「2022年の全国障害者スポーツ大会からボッチャが実施競技に加わったこと、また中高生の肢体不自由者が参加するボッチャ甲子園や、障害の有無に関係なく参加できる東京カップなどのインクルーシブ大会を開くことで各地域に活動拠点が増え、選手の力が伸びた」とし、地方の競技基盤の構築が普及と強化の連携につながっていると説明してくれた。
若い選手の躍動が目立った男子BC3。髙橋(祥)選手(左)が準優勝、鵜川選手(右)が3位に入った
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(取材・文/MA SPORTS、撮影/植原義晴)