大会・イベントレポート詳細
令和4年度東京都パラスポーツ次世代選手発掘プログラム
可能性の扉をひらけ!〜次世代を担うスターを探せ〜
東京都と公益社団法人東京都障害者スポーツ協会が実施する「令和4年度東京都パラスポーツ次世代選手発掘プログラム」(以下、発掘プログラム)の第2回目が、11月26日、武蔵野の森総合スポーツプラザで開かれた。本事業は、本格的にパラスポーツに挑戦しアスリートとして国際大会を目指したい人などが、自分に適した競技を見つける貴重な機会。平成27年度から実施していた前身の「東京都パラリンピック選手発掘事業」では、東京2020パラリンピック競技大会に4名の選手を輩出しており、令和元年度からは次世代を担う選手の輩出を目的としている。今回からは聴覚障害者のデフスポーツが加わり、デフリンピックのメダリストによる講演会も実施された。
小学生から社会人まで61名が参加
発掘プログラムは、自身の身体的な特徴や現在の運動能力を知るための「測定会」、実際に競技を体験し自分に合う競技を見つける「競技体験会」、専門家や競技団体と競技を始めるための相談ができる「競技相談会」で構成。参加費は無料で61名が参加した。
開催日当日は雨模様ながら、ぞくぞくと人々が会場に集まってくる。受付で参加者たちは障害別に色分けされたゼッケンを受け取り、メインアリーナへ移動。開会式で全体の流れや注意事項の説明を受けたあと、全員でラジオ体操を行い、準備を整えた。
現在の身体能力を知るための測定会
午前中の測定会は、身体測定のほか、筋パワーを測る「メディシンボール投げ」、瞬発力を測る「20m走」、持久力を確認する「5分間走」を実施。あらかじめ分けられたグループごとにそれぞれの測定場所をまわり、一人ずつ計測していく。
身体測定は、握力や肩関節の柔軟性などをスタッフがチェック。2㎏のボールを投げて距離を測るメディシンボール投げでは、力の弱い人はサイズの小さいボールやシャトルを投げることができ、全盲の人にはスタッフが手を叩いて投げる方向を示すなど、障害種別や程度に応じて様々な工夫がされていた。
測定会の開始時は静かな雰囲気だったが、途中から同じグループの人やスタッフに話しかける参加者の姿もあり、最後の測定種目だった5分間走では、完走後に周囲から拍手が送られるなど、会場に一体感が広がっていた。
自分に合った競技を見つける競技体験会
午後の競技体験会はメインアリーナとサブアリーナ、プールを使用して実施され、参加者は21競技(※)の中から事前に希望した2つの競技を体験した。知的障がい者サッカーでは、マーカーコーンが置かれたコースに沿って、ステップを踏みながら走る参加者の姿が見られた。また、車いすフェンシングや射撃ではスタッフから構えを教わったり、ボッチャでは実際にボールを投球したりするなど、参加者は基本から実践まで精力的に取り組んでいた。
この日、2競技を体験した低身長の小学5年の男児は、東京2020パラリンピック競技大会を観てパラスポーツに興味を持ったといい、今年9月の第1回目の発掘プログラムにも参加。母親は、「一時期は“嫌だ”と言うときもあったけれど、運動は好きみたい。無理せず楽しく、興味を持った道に進んでもらえたらと思う」と、話してくれた。
(※)陸上競技、バドミントン(身体・聴覚)、ボッチャ、カヌー、自転車(身体・聴覚)、柔道、パワーリフティング、ボート、射撃、水泳、卓球、テコンドー、トライアスロン、シッティングバレーボール、車いすバスケットボール、車いすフェンシング、車いすラグビー、スキー、車いすカーリング、視覚障害者ボウリング、知的障がい者サッカー
初実施のデフスポーツの講演会と体験会も盛況
今回の発掘プログラムから聴覚障害者が対象に加わり、デフリンピックの正式競技でもあるバドミントンと自転車の講演会と競技体験会が行われた。
講演会は、今年5月にブラジルで開催された第24回夏季デフリンピック競技大会バドミントン混合団体戦で銀メダルを獲得した長原茉奈美(ながはらまなみ)さんと、同大会自転車ロード競技タイムトライアル、ポイントレース、ロードレースの3種目で銅メダルを獲得した簑原由加利(みのはらゆかり)選手がゲストとして登壇。競技を始めたきっかけや、聞こえる人の競技とのルールの違い、デフリンピックの思い出などについて語った。
講演会後の質疑応答では、「大会ではどんなサポートが必要か」という聴講者からの質問に対し、長原さんは「聞こえない程度は人それぞれ。まずは聞こえない人とのコミュニケーションの仕方を知ってもらいたい」、簑原選手は「ブラジルのデフリンピックでは国際手話ができるボランティアさんが少なくて現場が混乱する場面があった。国際大会では国際手話の支援があるとうれしい」と話した。
続いて実施された競技体験会にも多くの参加者が集まった。デフバドミントンに参加した難聴の小学5年生の男児は、長原さんともシャトルを打ちあい、「緊張したけど、楽しかった。また参加したい」と話してくれた。
一般社団法人日本ろう自転車競技協会の強化委員会事業支援担当の早瀨久美(はやせくみ)さんによれば、聴覚障害者は先天性でも中途障害でもスポーツをする機会が少ないそうだ。その現状を踏まえ、早瀨さんは「体験をして終わりではなく、競技を始める人が増えるよう、次のステップにつなげていきたい」と、言葉に力を込めた。
競技活動のスタートを後押しする競技相談会
会場には「パラスポーツ全般相談」、「クラス分け(肢体不自由・視覚)相談」などの相談ブースも設置された。競技選択や活動開始に向けて具体的なアドバイスを受けられるとあって、参加者は競技団体の担当者や専門家の話に聞き入っていた。
「パラスポーツ全般相談」の相談員は、参加者から「自分の障害区分がまだはっきりわからない」「1種目のみ事前にエントリーしていたが、あとひとつ何かに挑戦してみたい」などの相談を受けたといい、クラス分けの専門家と情報を共有して、いくつかの競技を提案したとのこと。
また、参加者で全盲の髙橋(たかはし)オリバーさんは、水泳で日本選手権に出場した経験があるが、他にもできそうな競技がないか相談してみたいと思い、参加した。この日は水泳以外に視覚障害者ボウリング、スキーを体験したといい、「視覚障害のことをよく理解している人たちの話を聞いて安心感があったし、よく考えられたプログラムだと感じた」と話していた。
継続的なパラアスリート輩出を目指して
競技団体側もさまざまな思いを持って臨んでいた。会場で積極的に競技PRを行っていた一般社団法人日本車いすカーリング協会事務局長の金子恵美(かねこえみ)さんは、「複数の競技をやる人が多いのがパラスポーツの特徴。競技団体としてもこうした発掘プログラムに参加する意義があると考えている」と語る。
陸上競技では、車いすマラソンで2度パラリンピックに出場した、特定非営利活動法人関東パラ陸上競技協会理事長の花岡伸和(はなおかのぶかず)さんが参加者の相談に乗っていた。花岡さんによれば、相談を受けた頸椎損傷の参加者は、普段もこうしたイベントでも、同じ障害程度の人と交流が図れる機会が十分ではないと感じているようだったとのこと。「当事者目線の今日から使える生活のヒントやスポーツの話を聞いてみたいが、情報量が少ないと言っていた。競技団体側も受け皿を作らないといけないと感じた」と、率直な思いを口にした。
日本では2025年に東京で第25回夏季デフリンピック競技大会が、また2026年には名古屋で第5回アジアパラ競技大会が開催される予定だ。パラスポーツへの関心が高まるなか、次世代を担う選手の発掘事業がより成熟し、継続的なパラアスリートの輩出につながることを期待したい。
(取材・文/MA SPORTS、撮影/植原義晴)
発掘プログラムでは、プログラムに参加した方の競技活動のスタートを後押しするため、実技・座学を組み合わせた「フォロープログラム」や、競技団体の練習会に参加する「トライアルプログラム」も別途実施しています。
発掘プログラム全体の詳細は、以下のホームページからご確認ください。
■東京都 パラスポーツ次世代選手発掘プログラム ホームページ