大会・イベントレポート詳細
第4回日本IDハーフマラソン選手権大会
金子が日本記録更新の快走で4連覇達成!
「第4回日本IDハーフマラソン選手権大会」が1月27日、新宿区の明治神宮外苑をスタート、明治神宮野球場をフィニッシュとする特設コースで行われ、男女あわせて36名の知的障害ランナーが参加した。男子は金子遼(かねこりょう)(埼玉滑川走友会)が、自身が持つID(Intellectual Disability:知的障害)ハーフマラソン日本最高記録を1秒更新する1時間9分12秒で優勝し、4連覇を達成。今大会は第17回を迎える新宿シティハーフマラソン・区民健康マラソンとの同時開催で、金子は総合順位でも5位に入った。
金子が悔しさバネに、力強い走りでレースを牽引
冬晴れのもと、朝8時半にハーフマラソンの号砲が鳴ると、4900人を超えるランナーが一斉に駆け出した。靖国通りや外苑西通り、御苑トンネルなど、小刻みなアップダウンのあるコースで、序盤は若干のスローペース。金子は身長185㎝の大きなストライドで力走を見せ、13km付近でピタリと後ろを付けていた岩田悠希(いわたゆうき)(one’s)を突き放した。そのまま一般ランナー4人と形成した先頭集団を引っ張った金子は、19㎞付近で追走していた選手に差されたものの、IDの部2位の岩田に1分32秒の差をつけ、ゴールテープを切った。
「1時間8分台を狙っていたので、届かなくて悔しい」と満足はしていない。しかし、4連覇を果たしたと同時に自己ベストを更新したことについては、「とにかく嬉しかった」と笑顔を見せた。金子は昨年10月にポルトガルで開催されたINAS世界ハーフマラソン選手権大会に臨んだが、「最初の1㎞で突っ込んでしまい」、まさかの9位に。今回のレースはその反省を生かし、序盤からリズムをキープしたことが結果につながった。
今後の目標は、「ハーフマラソンで1時間8分台、東京マラソンで2時間21分台か22分台を出すこと」と金子。そのさらなる高みを目指して、練習に励むつもりだ。
2位に食い込んだ岩田「パラ出場が目標」
2位の岩田は、昨年まで10㎞ロードレースの部に出場していたが、今回はハーフマラソンに挑戦した。その理由を、今大会で日本知的障がい者陸上競技連盟(JIDAF)が定める2019年の強化指定選手の男子選考記録を突破するためだと語り、総合6位となる1時間10分44秒をマークしてその目標を達成した。強化指定選手になれば、より濃密なサポートを受けることができる。その岩田の視線の先にあるのは、パラリンピックだ。東京2020パラリンピックの陸上競技トラック種目では、男女とも400mと1500mでIDクラスが実施される予定になっている。岩田は1500mで出場を目指しているといい、「もっと練習を強化しないとダメです。タイムを伸ばしたい」と話し、成長を誓った。
また、3位は藤本康希(ふじもとこうき)(SCエンドレス)で総合8位。女子は阿利美咲(ありみさき)(吉野川市陸協)が1時間28分14秒で3連覇を果たし、同3位に食い込んだ。男子10㎞ロードレースは23名がエントリーし、十川裕次(とがわゆうじ)(大分陸協)が32分3秒で初優勝。2位の安西伸浩(あんざいのぶひろ)(ひかりAC)が33分19秒で同 5位に入賞する活躍を見せた。女子10㎞ロードレースは10名がエントリーし、安部実奈美(あべみなみ)(SCエンドレス)が2連覇を達成した。
一般ランナーの中でID選手が存在感を発揮
今大会は都市型の市民ハーフマラソンとの同時開催だけあって、すべての部をあわせると、実に1万人以上のランナーと、約1300人のボランティアが参加した。沿道には、子どもから大人まで大勢の市民が応援にかけつけ、小旗等を手にしながら声援を送っていた。そのうちの30代の男性に話を聞くと、「知的障害の選手が先頭集団を走っていたんですか? ぜんぜんわかりませんでした。速くてびっくりしました」と興奮していたように、IDの選手の活躍は多くの一般市民に驚きを与えたようだ。
大会実行委員会会長を務めた吉住健一(よしずみけんいち)新宿区長は、「ID部門の選手は総合でも上位に入りますし、一般のランナーと大きな差はありません。インクルージョンですね」と、今大会の意義について語る。またJIDAFの浅野武男(あさのたけお)事務局長も、「皆様に温かく見守っていただき、ありがたい限りです。この大会から世界で活躍する選手が次々に誕生しています。今大会は選手の力を皆さんに知ってもらうアピールの場になっています」と、言葉に実感を込める。
日ごろから一般ランナーとともに練習に励むID選手も多いという。彼らが今大会のようにレースでも切磋琢磨し、力を発揮できるような舞台が今後さらに増えることを期待したい。
(取材・文/MA SPORTS、撮影/植原義晴)