大会・イベントレポート詳細
2017ジャパンパラボッチャ競技大会
ジャパンパラ競技大会は、日本障がい者スポーツ協会と競技団体が共催して開催する、日本国内最高峰のパラスポーツ競技大会である。パラリンピックや世界選手権を目指すトップレベルの選手のための大会と位置づけられ、出場するための標準記録の設定、国際競技団体の競技規則やクラス分けが導入されている。陸上競技や水泳、ゴールボール、ウィルチェアーラグビー、アルペンスキーに加えて、2017年から新たにボッチャ競技大会が追加された。
リオパラリンピックで銀メダルを獲得したボッチャ競技がジャパンパラ競技大会に選ばれたことは、国際大会での活躍が益々期待されていることの証である。
世界最強のタイ、欧州の強豪イギリスを日本代表が迎え撃つボッチャの国際大会
2017ジャパンパラボッチャ競技大会が11月18日と19日の両日東京・武蔵野総合体育館で開催された。世界最強といわれるタイ、世界ランキング9位(ペアBC3)で、ヨーロッパの強豪国として名高いイギリスを迎え、チーム世界ランク2位の日本代表の戦いぶりが注目された。
ボッチャは、重度脳性まひ者や同程度の四肢重度機能障害者のためにヨーロッパで考案されたパラスポーツで「ジャックボール」と呼ばれるコート上の白い目標球を目指して、プレーヤーが赤と青のカラーボールを投げたり、転がしたりして、どれだけジャックボールに近づけるかを競う競技である。自力でボールを投げることができない選手は、ランプと呼ばれる専用の器具を使い、自分の意思をアシスタントに伝えてボールを転がす。アシスタントはコートを見ることができず、プレーヤーの指示通りにセットしなければならない。競技は男女の区別なく、障害の種類と程度によってクラス分け(BC1~4)がなされ、BC1がもっとも障害が軽い。それぞれ個人戦、ペア戦、チーム戦がある。今回の2017ジャパンパラ競技大会では、BC3ペア、BC4ペア、BC1-2のチーム戦が実施された。
クラス | 対象 | 投球 | 勾配具の使用 | アシスタント | 選手の特徴 |
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BC1 | 脳原性疾患 | 可 (足蹴り可能) |
不可 | 可 | 車椅子の操作できず、四肢・体幹にに重度のマヒがある選手 下肢で車いす操作ができ、足蹴りで競技を行う選手 |
BC2 | 脳原性疾患 | 可 | 不可 | 不可 | 上肢での車いす操作がある程度可能な選手 |
BC3 | 脳原性疾患 非脳原性疾患 |
不可 | 可 | 可 | 選手自身で投球ができないため、アシスタントがサポートとして勾配具の調整を行い競技を行う。最重度の選手が出場する |
BC4 | 非脳原性疾患 | 可 (足蹴り可能) |
不可 | 足蹴り選手のみ可 | 頚髄損傷、筋ジストロフィーなど、BC1やBC2クラスと同等の重度四肢機能障害がある選手 |
(公財)日本障がい者スポーツ協会「かんたん!ボッチャガイド」を参考に作成
大会初日は3試合が行われ、結果は以下の通り。
第1試合 | BC3ペア | タイ対日本 | 13-1 |
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第2試合 | BC4ペア | イギリス対日本 | 4-3 |
第3試合 | BC1-2チーム | タイ対日本 | 7-2 |
リオデジャネイロパラリンピック決勝戦の再現として注目が集まったBC1-2チーム戦は、日本が健闘したものの、最後にタイの底力を見せつけられ、悔しい敗戦となった。残念ながら日本は3試合とも勝利を飾ることができなかった。
大会2日目。ホーム開催チームとしての意地を見せるべく、日本代表チームの熱き一日が幕を開けた。
第1試合 | BC4ペア | タイ対日本 | 8-1 |
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【出場選手】
日本=江崎駿/藤井金太朗/高田信之
タイ=ポーンチョーク・ラップイェン/リッティカイ・ソムサノック
前日は終盤に大量失点をして1-13で大敗した日本。しかしこの日は好勝負を展開し、緊迫した試合となる。16歳と若い江崎が安定したスローを見せ、大いに健闘した。第2エンドでは4点を奪われたものの、途中交代で入った高田が再三にわたり、好スローを見せ会場を沸かせる場面もあった。1-5で迎えた最終エンドに一発逆転を狙った日本だったが、高田のラスト1投は惜しくも狙いが外れ、最後はタイに3点を加えられて、8-1と振り切られた。
それでも若い江崎の正確なプレーが世界に通用することが証明され、世界レベルで戦えると手応えをつかんだ。高田の健闘も光り、途中で下がった藤井も第1エンドでは、完璧なスローを見せた。それにしても、タイの両選手は厳しい状況でもまったく揺るがず、決めるべきところでしっかり決め、さすがは世界最強国の代表であり、技術の高さを感じさせた。
第2試合 | BC3ペア | イギリス対日本 | 4-0 |
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【出場選手】
日本=高橋和樹/松永楓/田中恵子
イギリス=ジェイミー・マッカワン/パトリック・ウィルソン
前日はリードしながらもイギリスに逆転を許し、惜敗した日本スローは、リベンジを狙う。第1エンド、日本は高橋が正確なスローで無難な位置につけるものの、イギリスペアがそれを上回る精巧なスローで好位置を奪い返され、1点をリードされる。第2エンドに日本は田中に代えて松永を投入。松永はランプのセッティングが合い、正確なスローを次々と決めて会場を沸かせる。好位置をキープした日本が有利に展開していたが、イギリスはエンド終盤にウィルソンが奇跡的なスローでジャックボールにぴたりとつけて逆転。結局このエンドも1-0。日本はトータル2-0とリードを広げられた。
第3エンド。先攻の日本は松永があえてジャックボールから離れた位置に初球を置いた。この作戦が功を奏し、高橋も完璧なスローでイギリスにプレッシャーをかけ、日本が有利に展開していたが、最後は地力に勝るイギリスが逆転。3-0となり、最終エンドへ。
第4エンドはまさに息詰まる熱戦となり、イギリスが好位置につければ日本が逆転し、それを再度イギリスが盛り返すという目まぐるしい展開となったが、結局このエンドもイギリスが接戦をものにして、トータル4-0で終了。大事な局面でスーパースローを連発するイギリスペアの試合運びのうまさが目立った。
それでも、日本の健闘は見事であり、イギリスとの差は紙一重と感じさせた。特に松永選手が再三にわたって正確なスローで相手ボールをはじき出して好位置を奪い返すたびに会場では大歓声が起こった。
第3試合 | BC1-2 チーム | タイ対日本 | 5-5(タイブレーク0-2) |
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【出場選手】
日本=藤井友里子/廣瀬隆喜/中村拓海/杉村英孝
タイ=ウィッサノ・ホアパディット/ブンテップ・ペッディ/ワラウット・セーンアンパー/パタヤ・テトン
1チーム3名ずつで競うチーム戦。ここまで勝利のない日本は、なんとしても勝ちたい一戦。しかし、個人世界ランク1位のワラウット、同2位のパタヤを擁するタイを破るのは簡単ではないと見られた。
第1エンド、先攻の日本はジャックボールを深めの位置につけ、序盤は互角の展開。日本は終盤に廣瀬が絶妙なスローで形勢を逆転し、そのまま0-1で逃げ切る。続く第2エンドはタイが先攻。ジャックボールを手前ギリギリにつけ、日本の目標ゾーンを狭くする作戦だ。上から投げる藤井には近めで難しい位置となり、苦しい展開となった。その後、藤井のファインスローで日本が好位置を奪って逆転するも、タイはブンテップの逆転スローから流れを引き寄せ、最後はパタヤの力強いスローで3点を奪われ、1-3と逆転された。
第3エンドは日本が先攻。コート左奥の深めの位置にジャックボールをつけ、杉村、廣瀬が狙い通りの位置に落として有利な展開に。それでもパタヤが狭い位置に絶妙なスローを決めてタイが逆転。しかし、このエンドを落とすと苦しい日本は、杉村が最後の1投をスーパースローで再逆転。このエンドを0-2で奪い、3-3の同点にした。この両者の試合運びで会場は大歓声に包まれた。
第4エンド、日本は藤井に代えて中村を投入。先攻のタイは相変わらず手前ギリギリにジャックボールを置き、日本のゾーンを消す作戦にでた。パタヤが厳しい位置に狙い通りのスローを決めて大きくガッツポーズ。それでも日本は廣瀬、中村が絶妙の位置にぴたりとつけて接戦に持ち込む。両国の高度なプレーの応酬で、試合はまさに大熱戦の様相を呈した。杉村はキャプテンの面目躍如のスーパースローを連発。最後は辛くもタイが1点をもぎ取る形となりトータル4-3となる。
第5エンド。日本が先攻し、序盤から杉村、中村がファインスローを連発する。それでもタイは冷静に日本の位置取りを崩し、ブンテップがうまく押し込んで逆転。日本は廣瀬のスローでいったん挽回したが、最後の1投でワラウットがこれぞワールドクラスのミラクルスローで再逆転。日本は杉村が見事なスローを決め、このエンドを0-1で奪い、トータル4-4で最終エンドに突入した。
このエンドでも手前ギリギリ、難しい位置のジャックボールに中村がぴたりとつければ、タイはワラウットが力強いボールで日本のボールを崩すなど、見どころの多い展開になった。最後は逆転を狙ったブンテップの1投に対して、スケール判定へ。どちらのボールがジャックボールに近いかをジャッジが測定したが、結果は両チームがまったく同距離という判定。このエンドは1-1となり、トータル5-5で決着つかず、勝負の行方はタイブレーク(延長戦)に持ち込まれた。
タイブレークでは、日本選手の気迫と場内の大声援でタイを圧倒し、タイが珍しくミスを連発。逆に日本は杉村、廣瀬が勝負どころで会心のスローを決める。特に廣瀬の最後の1投は、「ここしかない」という絶妙な位置に決まった。日本が好位置をキープしたまま、最後はタイが誇るパタヤ、ワラウットの両エースのスローの狙いが外れ、タイブレークを0-2で日本が勝利。大熱戦に終止符を打った。
【大会総評】
今大会、日本は1勝を挙げるに留まったものの、約1000人の観衆が詰めかけての大声援で大いに盛り上った。会場では地元市民が参加してのボッチャ体験も行われ、ボッチャという競技の魅力も大いに伝わったはずである。次回大会は2019年に東京での開催が予定されているとのことである。
ボッチャという競技は奥が深く、ボールの位置取りという頭脳的な作戦に加えて、緻密なスローイングテクニックが要求される。それにしても、タイ選手の冷静な試合運びとパワフルなスローには圧倒された。しかし、今大会では廣瀬や杉村などトップ選手のレベルアップも感じられ、江崎、松永、中村といった若い選手の台頭も見られたことで、今後に期待が膨らんだ。
(文責:TOKYO障スポ・ナビ取材班)