大会・イベントレポート詳細
東京2020パラリンピック競技大会 陸上競技
日本勢が過去最高の成績!
東京2020パラリンピック競技大会の陸上競技は、8月27日(金)から9月5日(日)までの10日間で開催された。日本は男子26名、女子20名の計46名が参加し、金メダル3個、銀メダル3個、銅メダル6個の計12個のメダルを獲得した。東京にゆかりのある選手としては、澤田優蘭(さわだうらん)選手、鈴木朋樹(すずきともき)選手がユニバーサルリレーで銅メダルを獲得している。
リオの悔しさを晴らす3つの金メダル
日本勢で金メダルを獲得したのは、佐藤友祈(さとうともき)選手と道下美里(みちしたみさと)選手の2選手だ。佐藤選手、道下選手ともに前回のリオ2016パラリンピック競技大会(以下、リオ大会)では銀メダルを獲得しており、また今大会では世界記録保持者として、金メダル候補に挙げられている中で期待通りの結果を残した。
佐藤選手は陸上競技初日の8月27日(金)、まず男子400m T52(切断・機能障害)において、ゴール直前のラストスパートで前を行くライバルで前回大会金メダリストのレイモンド・マーティン選手(アメリカ)を逆転する劇的な優勝。パラリンピックレコードを大きく更新する55秒39で、今大会日本陸上チーム初となる金メダルを獲得し、日本選手団に勢いをつけた。
そして2日後の8月29日(日)、1500m T52(切断・機能障害)でも400m同様にレイモンド・マーティン選手との壮絶なデッドヒートを繰り広げながら、最後まで首位を明け渡さず2つ目の金メダルを獲得。初出場だった前回のリオ大会で、いずれの種目でも敗れたライバルとの激闘を制し、リベンジを果たした金メダルだった。
大会最終日の9月5日(日)女子マラソンT12(視覚障害)に登場した道下も、前回のリオ大会で涙の銀メダルを経験しており、東京パラリンピックへの出場が内定してからは「東京大会ではリオ大会で獲得できなかった金メダルを獲りに行く」と公言し、大会に臨んだ。スタートから先頭集団に入り、21キロ過ぎにガイドランナーが青山由佳(あおやまゆか)から志田淳(しだじゅん)に変わると、30キロ過ぎに一気にギアを上げて首位に立つ。最後は笑顔でゴールテープを切り、5年越しの金メダルを獲得した。
日本はこの金メダル3個に加え、銀メダル3個、銅メダル6個、入賞45と過去最高の成績を収めており、開催国として堂々の結果を残したと言っていいだろう。
東京ゆかりの選手も堂々の活躍
過去最高の結果を残した日本選手団の中で、東京ゆかりの選手も活躍を見せてくれた。
陸上競技初日の8月27日(金)に登場したのが、女子走り幅跳びT11(視覚障害)決勝※に出場した高田千明(たかだちあき)選手。前回のリオ大会では同種目で8位に入賞しており、今大会は「目標は金メダル」と公言して臨んでいた。
※走り幅跳びT11のクラスでは、予選はなく、決勝から実施
そして、いきなり1回目の跳躍で実力を発揮する。コーラー(踏切のタイミングを伝えるサポート役)兼コーチの大森盛一(おおもりしげかず)の掛け声に向かって、迷うことなく助走で加速。スピードに乗った美しい跳躍で、自己記録を5cm更新する4m74cmをマークした。跳躍後、コーラーの大森とともにスタンドの関係者の声援に笑顔で手を振る姿が納得のジャンプの証だった。
しかし、その後の5回の跳躍では記録を伸ばせず、結果は5位入賞。高田選手は「記録自体は悪くはないのですが、もうちょっと(記録が)欲しかったなという気持ちで今はいっぱいです」と悔しさをにじませ、「まだまだ上を目指して頑張っていきたいと思います」と前を向いた。
大会期間中に20歳の誕生日を迎えた松本武尊(まつもとたける)選手は初となるパラリンピックの舞台で400mT36(脳性まひ等)と100mT36(脳性まひ等)に出場した。
パラ陸上を始めたのがわずか2年前、国際大会に出場したのが今年になってからという、まだ競技経験の浅い松本選手は、8月31日(火)に行われた400mでは出場選手中最下位の7位という結果に終わったものの、大会の雰囲気にも慣れて臨んだ9月3日(金)の100mでは実力を発揮する。
予選2組に登場すると、スタンディングスタートから勢いよく飛び出して12秒61をマーク。この組4位で惜しくも決勝進出とはならなかったが、見事に自己記録を更新して有終の美を飾った。受障前の高校生時代はハードル種目でオリンピックを目指していた松本は「オリンピックとパラリンピックで違いますけど、病気をする前から夢だったこういう舞台に立てて、すごくうれしい気持ちでいっぱいです」と話した。
9月3日(金)に行われた男子1500mT20(知的障害)決勝には、岩田悠希(いわたゆうき)選手が出場した。知的障害の陸上選手に寄り添った指導に定評があり、岩田選手が目標とする人に挙げる下稲葉耕己(しもいなばこうき)コーチの下で急成長を遂げており、今大会には自己ベストである3分56秒36を大きく更新する「3分49秒を出す」と意気込んで臨んだ。
雨足が強くなるなか、岩田選手はスタートから飛び出し、先頭に立ってレースを引っ張る。800m過ぎに海外勢に抜かれ、後退してしまうが、その後も粘りを見せて、4分01秒72の記録で8位入賞を果たした。
「雨のなか頑張りましたが、思ったよりもタイムが出ませんでした。後半は海外勢に先にいかれてしまいました」
優勝タイムが3分54秒57だったので、「3分54秒で金メダルだったのか」と、自己ベストと比べてあと少しという悔しい思いも抱いたそうだ。今大会の経験を糧に、今後もさらなる高みを目指して頑張っていくと決意を新たにした。
北京2008パラリンピック競技大会以来、3大会ぶりの出場となった澤田優蘭(さわだうらん)選手は、走り幅跳びT12(視覚障害)、100m T12(視覚障害)、そして今大会からの新種目である400mユニバーサルリレーに出場した。2017年、高校時代からの恩師である三浦真珠(みうらしんじゅ)コーチ、跳躍専門の宮崎利久(みやざきとしひさ)コーチ、コーラー兼ガイドランナーの塩川竜平(しおかわりゅうへい)らで結成された“チームウラン”の成果を示すべく「メダル獲得」を目標に大会に臨んだ。
まず、8月29日(日)に行われた走り幅跳び決勝では、徐々に記録を伸ばして迎えた4回目の跳躍で、シーズンベストとなる5m15cmをマーク。5位入賞を果たし「北京大会では出場することが精一杯。でも今回はメダルを狙って、勝負に加われた。楽しかった」と納得の表情で語った。
続く100mは準決勝で敗退したが、9月3日(金)、自身最後の種目となった400mユニバーサルリレー(視覚障害、切断・機能障害、脳性まひ、車いすの順でタッチによって行われるリレー)決勝で第1走者として、澤田選手はガイドランナーの塩川とともに良いスタートを切ってスムーズに第2走者の大島健吾(おおしまけんご)選手につなぎ、第3走者の高松佑圭(たかまつゆか)選手、アンカーの鈴木朋樹(すずきともき)選手へとタッチが繋がれていく。日本はアメリカ、中国、イギリスに次いで4位でのフィニッシュとなったが、2位の中国が失格となったことで繰り上げでの銅メダル獲得となった。
澤田選手は「ちょっと一瞬は4着ということで悔しい涙もみんなあったのですが、しっかりタッチを繋いだからこそのメダルだと思うので嬉しいです」と、チームワークが結実した結果の銅メダルだったことを強調した。
コロナ禍で大会が1年延長され、大会期間中も無観客をはじめとした感染防止対策の徹底など異例の中で開催された東京2020パラリンピック競技大会の陸上競技だったが、この舞台に立った日本選手46名のアスリートたちは堂々と競い合い、日本は過去最高の結果を残した。多くのアスリートたちはこの追い風に乗り、来年の神戸2022世界パラ陸上選手権大会、そして3年後のパリ2024パラリンピック競技大会へと羽ばたいていく。
(取材・文/(株)ベースボール・マガジン社、撮影/椛本結城(かばもとゆうき))